4限目の授業が終わり
昼食の時間になっていた。
私はいつもるりとお昼を食べている。
るりとは初めて会った日から
休み時間など学校にいるとき
ほとんどを一緒に過ごしている。
いつもと変わらずるりが
隣の席をくっつけてお弁当を
準備し始めた。
私も自分で作ったお弁当を
机に置いてるりと一緒に食べ始めた。
すると私の前の席に女子達が
集まってきた。
「槙村君!!一緒にお昼食べない?」
ひろとが女子からのお誘いを
受けている。
「俺隣のクラスのやつと
約束してるからごめんな?」
ひろとが申し訳なさそうに
女子達に謝った。
ひろとは優しい。
私だけにじゃなく誰に対しても。
性格も明るくて
それにプラスルックスも良くて
相変わらずモテモテだ。
なんだか嫌な感じ…
そう言うとひろとは
教室を出て隣のクラスへと
行ってしまった。
「…みっ!えみ!」
「えっ?」
るりが私の事必死でをよんでいた。
全然気がつかなかった…
「もうえみったら〜ずーっと
槙村君の方ばっかみてさ、
私に気づいてくれないんだもん。」
プクッと頬を膨らませ
怒ったふりをするるりはとても可愛い。
「見てないよ!ごめんね…?」
私そんなに見てたの?!
自分では気づかなかったよ…
「いいよ!それにしてもえみはさ…
槙村君の事が本当に好きなんだねぇ。」
ニヤニヤと私を見ているるり。
なっなんで私が!?
そんなわけないから!
「そんなわけないじゃん!
何言ってんのほんと!」
私はなんとかわかってもらおうと
必死で訴えたが
「あーはいはい。」
軽く流されてしまった。
るりのことは好きだと思えた。
でもやっぱり心からの笑顔を
見せることが出来なくて…
ごめんね。
帰り支度を終わらせ
いつものようにひろとが
私についてきて一緒に教室をでた。
2人で駅まで歩いていく。
「ねぇひろと。
なんで私と一緒に帰るの?」
ひろとに尋ねてみた。
ひろとは少しびっくりしたように
「そんなの決まってんじゃん。
俺がえみと一緒に帰りたいから。」
といつもみたいにニカッと笑った。
それにドキッとしてしまう自分がいる。
それってどういう意味なの?
みんなにもそういう風に笑って
優しくしてそんな言葉を言うの?
心の中にモヤモヤとした
感情が渦を巻いていく。
「なんで聞かないの?
私が笑わない理由。みんなの前では
いつも作り笑いで笑っている理由。」
いつからこんなに
ひろとに色々話せるように
なったのだろうか…自分でも
不思議で仕方がない。
ひろとは優しく微笑んで
「おまえが言いたくなるまで
俺は待ってるよ。だから無理に
言わなくてもいい。」
そう言って私の頭を
くしゃくしゃ撫でた。
なんでそんなに優しいのよ…
わかってしまった。
自分の感情に。
モヤモヤの心のわけを。
私…ひろとのことが
好きなんだね…
るりの言った通りじゃん…
でも私の笑わない理由…
過去を知ったらひろとは
私から離れていっちゃうんだろうな。
初めてなのに。
やっと本気で好きな人ができたのに…
手放さなくちゃいけない想い…
涙がポタポタと頬を伝う。
全て話してもうこの気持ちは
終わりにしよう…
人の前で泣いたのなんて
初めてで…絶対に人前では
泣かない私はひろとの前で
涙を流した。
そんな私に気づいたひろとは
驚いていて…
するとふわりと体が何かに包まれた。
私の好きな人。
暖かい温もりに…
ひろとが私を優しく抱きしめていた。
「大丈夫だ。」
何も言っていないし
私がなぜ泣いているのかすらも
わからないのに私に大丈夫だと
囁きかけるひろとは何者だろうか…
そんなひろとの優しさに
さらにとめどなく溢れてくる涙。
言わないと…
ちゃんと私の事を話さないと…
ひろとの優しさばかりに
甘えていちゃダメなんだ。
「うっうぅ…ひろと…公園いこ…」
私を抱きしめていたひろとは体を離し
私の手をしっかりと繋いで
近くにあった公園へと向かった。
公園のベンチに2人で腰をおろした。
まだ泣いている
私の頭をひろとはずっとただ黙って
撫でてくれていた。
よし。私はゆっくり深呼吸をして
ぽつぽつと自分の過去を話し始めた。
「ひろと笑わないで聞いてね。私…」
私がまだ小さかった頃、
私は両親に暴力を振るわれていた。
本当に小さな体を
毎日毎日傷めつけられて…
幼いながらに
ものすごく痛かったのを覚えている。
母親は水商売をしていて
浮気なんて日常茶飯事でいつも
家にいなかった。
父親はお酒ばっかり飲んで
母親の浮気への怒りを私に向かって
ぶつけてきた。その形が暴力…
父は仕事には行っていたので
両親はいない時がほとんど。
寂しいなんて思わなかった。
母は元々いないようなもので
父は帰ってくると暴力を振るってくる。
幼かった私は
毎日冷蔵庫の中のものを適当に
口に入れなんとか生き延びていた
という感じ…
そんな毎日が続いていた。
元々水商売をやっていた母は
本当に父の子供なのかわからない状態で
父と結婚したそうだ…
だから私は本当は誰の子供かなんて
わからない…
そんな私の小さな体にも
ついに限界がきて…
父は私に暴力を振るった後仕事に
いってしまった。
私は動くことができなかった…
ズキズキと痛む傷。
遠のいていく意識…
そんな時
遠くに住んでいた私のおばあちゃんが
たまたま家を訪れた。
倒れている私を見つけて
おばあちゃんは慌てて救急車を呼んだ。
それから
私は意識も戻り少し入院して
帰れることになった。
もちろん両親が顔を出すことなんて
一度もなかった。
でもおばあちゃんは毎日
私のところにいてくれて
本当に嬉しかった。
とっても優しくて私に
微笑みかけてくれるおばあちゃん。
それから私は小学生にあがるとき
大好きなおばあちゃんに
引き取られることになった。