私は小さな街を 雨の中息を切らし駆け抜けていた


はぁはぁと リズム良く溢れる息と胸を叩く心臓の音


この街には色んな音が溢れていて

音は勿論、言葉 表現 想像 これらにも音がついているのだと このちっぽけな頭で考えている頃、雨は激しさを増した


1つ屋根の下。

古く あまり人が来ないようなでも私が好きな本屋の前で雨宿りを決め込むと その場へ駆けた。


その下は あまり人はいなく、私と見知らぬ男性二人だけだった


私は服についた水を払うべく 素手で払い始める

なんだか視線は感じる気はするが 私はそのままこの行為を続けた


止まない空を見上げ 私はぼけーっと テストのことを考えていた

男など興味はなく 好きなものを好きなだけ精神の私は 恋愛と言うものに興味が薄かった


そんな事を頭の片隅で考えていると

「…雨、止みませんね」

ポツリと 雨音で消されるかくらいの声の大きさで ひとりの男性がつぶやいた

「…止みませんね」

私はそれとなく返事をし また空を見つめ始める

「今日は どうしてここへ?」

彼が話を続けるものだから

「…ぁー…ここの本屋さんにたまに来るので…」

通学で通りかかる道で バイト代が入り欲しい本が見つかればここで買うくらいだ。

「ここ、いい本がたくさんありますもんね」

彼は小さく笑い そう言った

「はい。 …あなたは?」

見かけない…と言っても 私は顔を覚えるのが苦手だ。だから見ていたとしても覚えていないだろう

「僕ですか?いつもここへ可愛い妖精を見に来るんですよ」

あ、冗談ですよ?くすくすと鼻を鳴らしながら笑う彼に 頭大丈夫か?などの心配がよぎるも そうなんですか?と 一応聞き返してみた

彼は
「えぇ、すごく可愛いんですよ。」

「…どんな妖精ですか?」

思わず 何も考えず喋ってしまっていた。
目を丸くしていた彼が 目尻を下げなんだか嬉しそうに見えるその笑顔を見つめると、少しだけ胸がチクチクとした

そう考えていれば

「たまに見かけるんですけど この本屋の中をくまなく探し回り、なかなか自分の好きな本が見つからないんです」

…ん?それは人か?
そう考えていても彼は言葉を紡ぎ続ける

「そして 欲しい本を見つけると凄く笑顔になるんです」

満面の笑みで彼が笑うから 私も薄く笑った
だから僕はその笑顔が好きだから毎日通ってしまうんです
極稀にしか 見られないんですけどね
なんて苦笑い混じりに呟く彼に
少しだけ、彼が気になり始めていたことを 雨にずぶ濡れになってた私はまだ知らない