「革命だ! 革命! あの女狐と間男を宮廷から追い出せ!」
 それから約半年後の一一月、宮廷の中ではそう叫んで走り回る男達でごった返していた。
 主にロジャーの方が好き勝手にし、家族や知人をいきなり投獄されたり、妻や恋人、娘に手を出されたり、行方不明にさせられた者達が怒りの行動を起こしていたのだった。
 当時、平民が貴族の愛人になることは珍しくなく、女の中にはそれを狙って貴族の屋敷で勤めるのを志願する者も少なくはなかった。
 が、ロジャーにとって一番の女性はイザベラであったので、手を出してもすぐに捨てたり、子供が出来ても認知しなかったりしたので、家族らに怒りを買ったのだった。
「やり過ぎだったのよ。まぁ、止められなかった私も悪いのだけれど……。夫を廃位させた時点で、私の運命も決まっていたのかもしれないわね……」
 イザベラはそう言いながら、ドアの鍵を確認し、その前に家具を置いた。
「あの売女(ばいた)は何処だ! フランスに我が国を売ろうとしやがった女はどこだ!」
 すぐ外でそう叫ぶ男の声が聞こえ、イザベラは黙ってガウンの端をギュッと掴んだ。
 ガシャン!
 その時、窓が割れ、ビクリとするイザベラ。
「石……」
 散らばる窓ガラスの中に小さな石を見つけたイザベラが、思わずそれを拾おうとした時だった。
「ここか!」
 そう叫ぶ男の声と共に、ドアがドンドン叩かれたのは。
 イザベラは思わず衣装ダンスの中に逃げ、声を潜めたが、ドアはすぐに破られてしまった。
「あの女はどこだ!」
 そう叫びながら男が入って来、イザベラが中で震え上がった時であった。
「それ位にしてもらおう。いくら気に食わない女だといっても、一応、産みの母なのでな」
 それは、聞き覚えのある声だった。
 思わず、中のイザベラがほっと胸をなでおろすと、その声は続けた。
「まぁ、そうはいっても、あの男が捕まったというのに諦めず、私の子や妻に害を加えようとすれば、産みの母といっても、赦しはしないがな」
 その声はそう言うと、真っ直ぐに衣装ダンスに近付き、そのドアを開けた。
「これはこれは、母上。やはり。こちらでしたか」
 震え上がって真っ青な母を見つけると、エドワードはニヤリとした。
 ──結局、愛人と共謀して夫を国王の地位から引きずりおろした女は逮捕され、死ぬまで牢に幽閉され、二度とそこから出ることはなかった。
 一方、その愛人という地位を利用し、好き放題したロジャーはというと、すぐに広場で処刑されたのだった。