「少し宮廷内の風通しが良くなったな」
 クーデターから一週間程断ち、壊れた所も修復されてきた頃、イザベラとロジャーが使っていた一番広いサロンで優雅にくつろぎながら、エドワードはそう言って満足げに頷いた。
「私は、王子が無事なだけで、嬉しいわ」
 母になったというのに、まだあどけなさの残るフィリッパがそう言いながら、すやすや寝ている赤ん坊を抱っこしていると、ドアがノックされ、幼い少女が入って来た。
「あら、来てくれたのね、ジョアン」
 覚束ない足取りで、周囲を心配そうに見ながら侍女に手を引かれて中に入って来た少女を見て、フィリッパがそう言うと、少女は侍女の後ろに思わず隠れた。
「大丈夫よ。私達は何もしないわ。この子の遊び相手になって欲しくて、呼んだんですもの」
 そんな少女に笑顔で近付き、腕の中の赤ん坊を見せると、それまですやすや寝ていた王子が目を開け、笑った。
「まぁ、王子もジョアンのことが気に入ったのかしらね?」
 笑顔でそう言うフィリッパに、エドワードは尋ねた。
「さっきからジョアンって呼んでいるその子は、ひょっとして……」
「エドモンド叔父上の忘れ形見よ。奥様も亡くなられてしまったんですもの。ここで一緒に育てても構わないでしょう?」
「そりゃあ構わないが、養女にする気じゃないだろうな?」
「今の所、それは考えてないわ。遠い親戚のお姉さんとして、この子を可愛がってくれればいいなとは思うけれど……」
「なら、好きなようにしなさい」
 エドワードのその言葉に、フィリッパの顔がパッと明るくなった。
「ありがとう! エドワード、あなたのそういうところ、大好きよ!」
 ──こうして、ジョアン・オブ・ケントとエドワード王子は、同じ宮廷で育てられることになった。後に、王子が彼女に惚れてしまい、他の女性には目もくれなくなってしまうとは、この段階では誰も思っていなかった。当の本人でさえも。