私は今、怒っている。


お付き合いをしている彼氏に怒っている。









だって、だって、……教室でっ、……キスしてきたんだからっ!


……最低、本当に最低。



そりゃ私も彼が好き。


付き合えてて嬉しい。


だけど急に教室でキスするなんて……酷すぎる。


その場ではもちろん茶化されて、いてもたってもいれなくて私はそのあとの授業をサボってしまった。


……家に帰れる気分じゃなくて、公園で一人ぼっち。




あーあ……本当に、どうしてあんなことしたの?


普段はそんなに、愛情の安売りするような人じゃない。


しかもそれを見せびらかす人でもない。


だからなにか理由がある気がしてならないのに……。


だけどやっぱり、理由を聞けるほど冷静ではいられない。


とにかく、私は怒っている。






ふと、スマホが震えた。


見ると彼からのメール。


なによ、メール送ってくるとかかしこまっちゃって。



【さっきは、ごめん。
怒るのも無理はないよね……恥ずかしいことしてごめん。
だけど仕方なくて、って、言い訳みたいだけど読んでほしい。
あのとき俺がキスしないと、自分が君にするって言ったクラスの男子がいて。
もちろん冗談で俺をからかってたんだろうけど、けっこう真に受けちゃった。
君にキスされるなんて、ご免だよ。
なら……俺がしたほうが絶対いいって思って、勝手にしました。
俺がバカだったよね。
ごめん。】




……バカじゃん。


バカだよ。


そんなの絶対、冗談だったに決まってる。


なんで……。






私は、気がついたら学校に逆戻りしていた。


ちょうど昼休みの時間。


パンの自動販売機の前にいた彼を見つけた。



「……バカじゃないの」



私の第一声。



「絶対からかってただけなのに。……まんまと乗せられるなんてバカじゃん」



「……ごめん」



急に現れた私に驚きを隠せない様子の彼。


「バカだよね、ほんと。場所を考えてよ」


「……うん」



「突然友達の前でされた人の気持ちがわかる?」


そう言ってしまうと、突然しなくちゃいけなくなった彼もなかなか悲惨ではあるけれども。



「でも……そんなバカのことを好きなんて、私もバカだね」


「え……?」


怒ってないのか、なんて聞きたそうな顔をしている。


そんなのもちろん。


「怒ってる!……けど……」



私の言葉を待って息を飲む彼に、言ってやったよ。








「教室でキスしちゃうくらい、私のこと好きだなんてバカじゃないの」



「……ふっ、……そうだね、俺、どうやらバカみたい」



テストの点がいつもめちゃくちゃ高い彼がそう言うのは、とっても矛盾して聞こえた。