なに、それ…

だってあたしは、西田さんの言ったとおり、颯に嫌いだって言って…

どうして?

頭が混乱して、なんにも浮かばない。

唇がブルブル震えて、声が出ない。

「ごめんね?でも、実結ちゃん、全然颯君と話してないみたいだし、もういいや。」

西田さんはクスクス笑うと、あたしに一歩近づいた。

「まさか颯君が来るとは思わなかったけど!だってしかたないじゃない?颯君、断固あたしと付き合ってくれないし!」

おかしいよ、そんなの!

だって颯のことが好きなら、普通好きな人には幸せになって欲しいって、いつも笑顔で過ごして欲しいって思うんじゃないの?

好きな人の夢を、絶対に叶えてほしい。

そのためなら自分がどんなに辛い思いをしてでも応援したいって思うんじゃないの?

「でも、颯君全然あたしに落ちないし、つまんないからもうやめよっかなって思ってるんだよね!良かったね、実結ちゃん、ライバル減ったよ!」

パシッ

乾いた音が静かな廊下に響いた。

あたしは反射的に、西田さんの頬を叩いていた。

右手がジンジンして、痛い。

初めて人を叩いた。

震える右手を、ぎゅっと押さえつける。