そうしているうちにスタッフルームの扉が開いて笑いながら悠斗君と小林君の二人が出てくるのが見えたからワザと私はその場を動かなかった。

私を視界に捉えた二人は「「あっ…」」と声を出して気まずそうに視線を逸らしたのを見ても、もう悲しくはない。

心の中はモヤモヤとはっきりしない事柄が幾つかあるのが気になるだけだった。

それは悠斗君の「高校からのツレに奢って協力させて」という言葉。

私が悠斗君と付き合う切っ掛けとなったあの件を指しているのに違いない。

頭に掛かっていた靄が晴れてはっきりと整理が付いたら、高橋悠斗いう人間は最早最低な部類の人間と認定するしかないという事実のみが残った。

辞める理由が「一身上の都合」なのには間違いないけど、高橋悠斗に気を遣う必要はどこにもないと思った私は正直に話しをしようと決めていた。

つい先程まで失恋の痛みを感じていた筈なのに真相を知った今は自分の見る目の無さに呆れて、あんな最低な奴を好きだったのかと思ったらジワジワと腹が立ってくる位に素早く立ち直ることが出来た。

そこに店長の近藤さんがやって来たので先ずは急に辞める事を謝罪する事にした……本題はその後だ。

「店長、急に辞める事になってご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「錦野さんは遅刻、欠勤もなく真面目に働いてくれたから残念だよ……辞める理由を聞かせてくれる」

店長の言葉に悠斗君と小林君がその場を去ろうとしたから二人に向ってビシッと指をさし

「その理由はその二人にも関係があるので……」そう言ったら二人は固まったように動けなくなった。

「ふ~ん、それじゃあ聞かせて貰おうか?」

店長は思い当たる節があるのか二人の顔にしっかりと視線を固定したまま話を聞いてくれた。