彼と私の関係はただの友達だ。
ただの、は少し語弊があるかもしれない。
高１の初め、彼は私の席の前だった。
彼は若松千尋と言う。私は相川陽楽(ひらく)と言う変わった名前をしている。
高１の入学式の次の日にすること何て、まずは自己紹介だ。もちろん若松の後に私なのだが、若松は後ろを向いて私を凝視していた。そして私が「相川陽楽、太陽の陽に楽しいでひらくと言います」と言ったら、すごく嬉しそうにしていた。
私の自己紹介が終わってすぐ、
「陽楽、ひらくって言うのかー昨日からずっと何だろうって考えてたー」
と気さくにふにゃっと笑った。
「変わった名前って良く言われる」
「俺はよくありそうな名前って言われる笑」
そんな感じで若松とは仲良くなった。
私は彼を若松と呼び、彼は私の名前が気に入ったのか、初めから陽楽と呼んだ。
高２になってクラスは離れたが、変わらず仲良しでいる。
若松はモテるまではいかないが、かっこいいとは言われ、高１の夏と秋には告白され、バレンタインにはなかなかの数のチョコレートを貰っていた。
でも若松は告白や好意を全部やんわり断ってきた。
私は以前若松に聞いたことがある。
「若松は彼女をつくんないの？」
そしたら笑顔で、
「今はいらないかなー、俺がいなくなったら陽楽が寂しがるからー」
とおどけて言った。
「馬鹿じゃないの笑 寂しいわけないじゃん」
「またまたー」
と言っていたが、私は少し嬉しかった。
若松との距離は心地良い。付き合うわけではなく、お互いにそこまで干渉するわけでもなく、さらっとした関係である。ただ、私が何かを話したい時、必ず若松は柔らかい笑顔で優しい声でうんと言いながら聞いてくれる。そんな若松との関係が、私にはすごく大事だから、若松が彼女をつくってしまったらこの関係が崩れてしまうんではないかと思う。
だからこそ、若松が「今はいらないかなー」と言ったら嬉しかった。決して若松に恋をしているわけではないけど。
今は高２の七月、暑さのピークはもうちょっと先だ。もう半袖の人もかなりいる。
「ひらく〜帰ろ〜！！！」
と言ったのは、高１から同じクラスの伊藤沙奈だ。沙奈は背が高くてスラッとしていて、モデルみたいだ。
「ごめんー、今日若松とパフェ食べに行く、沙奈もくるかい？」
と私が聞いたら、
「おーそーか若松くんかー」
とニヤニヤ笑った。
「またそんな顔して....若松とは何にもないよ....」
「いやー、何にもないと思ってるのはひらくだけかもよ〜？笑」
と沙奈はよくこんなことを言う。
「まぁ頑張って☆今日は私は帰らせていただきまするー」
と言って沙奈は先に帰っていった。
若松のクラスのSHRはいつも一番遅い。松下先生という、理系化学の先生なんだが、この人は話が長い。一年生の時の授業は辛かったな。今は文系で化学は選択だから私はとっていない。
若松のクラスの前で若松を待っていると、わりと早くSHRが終わった。
「陽楽ー、すぐ行く？」
「うん、早く行こ」
と言って二人で行こうとしたら、若松のクラスの人が、「また千尋は陽楽ちゃん連れてー」とか「相川さんはお前の彼女か！！」と若松をからかった。
まぁこういうことはよくある。勘違いはよくされる。それを若松も私もあまり気にしていない。
「ちげーよ笑 佐藤達は陽楽の見た目に騙されすぎｗ」
と言って歩き出してしまったので私も歩き出した。
玄関で若松は一年生の女の子に声をかけられていた。下駄箱は反対側で見えはしなかったが、声が聞こえた。
「若松先輩！明日のお昼休みに音楽室前に来てほしいです！！」
頑張ってふりしぼって出した女の子の声だった。若松はたぶん笑顔で
「わかったー、１時頃でいいかな？」
と言った。女の子は
「はい！お願いします！」
と言ってきっと友達もいたんだろう、２人分の走る音が玄関から遠ざかっていった。
そんな告白するので来てくださいって感じの呼び出しを受けたのに、若松はテンション上げるわけでも自慢気でもなく、
「陽楽行こ」
といつも通り言った。私はこんな若松をたまに不思議に思う。
学校からでて、そこそこ近い場所に新しくカフェがオープンした。そのことを話たら、若松が行こうと言ってくれたので今に至る。
私はチョコレートのパフェ、若松はチーズケーキを注文した。
「若松、チーズケーキ好きだよねー」
「うん、ケーキで一番好き。陽楽はいっつもチョコレートだよな」
「チョコレートが好きだから」
「確かにｗ俺のバレンタインに貰ったやつ半分は陽楽が食べたからなｗ」
と笑った。そりゃあそうだろう、私はチョコが好きで食べたと思ってるのかもしれないが、(実際それもあるけど)若松はチョコレートが苦手なんだ。のくせに笑顔でチョコレートを受け取っていた。だから私は半ば呆れながら若松のチョコレートを食べた。それを知らない女の子達は可哀想だったなと思う。
そんなことを考えていて話題を今日の女の子の話に移した。
「そー言えば、若松明日女の子に呼び出されたね。どーするの？」
「どーするって行くよ？」
「いや、そーじゃなくて、告白をどーするの？」
あー、そーゆーことって感じで若松はさらっと、
「断るよ」
と言ってチーズケーキを食べた。
「またかー、もったいないなーモテ期終わるよ」
「うるせーｗいいの、俺はこれで笑」
「どれだよ」
「これこれ」
と意味のわからないことを言った。
「じゃあ明日のお昼は３人かー」
「すぐ終わるだろー」
お昼ご飯はいつも、私と沙奈と若松と堀と言う男の子で食べている。一年生の時に特別仲の良かった四人だ。堀は沙奈に片思い中で、堀のアピールも沙奈には全然伝わらなくて。それを見て私と若松はニヤニヤしていた。
「陽楽はどーなの？」
「どーとは？」
若松は話を急に私に移した。
「彼氏とか、好きな人は」
「彼氏がいたら、若松とパフェ食べに来てないし。好きな人はいないかな。」
そう私が言ったら、ふーん、と微妙な顔をした。
「この前の、Ａ組の人は？」
「あー、話したことなかったし、断ったよ」
と言うと、少しホッとした顔をした。
若松はたまに、こんな事を私に聞いてくる。そして微妙な反応をしたり、時には嬉しそうにする。若松のその反応が疑問に思う。私達の関係は恋愛じゃない。たぶん若松もそれははっきりわかっている。それなのにそんな反応されると怖くなる。もし、万が一....考えたくないし、それがないのもわかっているが....
色々話をしていたら６時になっていた。初夏の６時はまだまだ明るい。若松と地下鉄に乗り、私の方が早く降りる。若松が優しく笑って「じゃあまた」と手を振った。「うん、じゃあまた明日」私も手を振って地下鉄を降りた。若松のその顔が私は大好きだ。
その夜は若松の事を少し考えた。断ると言ったがもし、若松と誰かが付き合ったら、私達の関係は崩れるのかな。もし、万が一があれば、私達はどうなるのかな。
私が若松を好きになったら、若松はその気持ちに答えてくれるかな？と考えて、あれ、何考えてるんだろう私。とその疑問を打ち消した。
色々考えていたが、嫌になってやめた。そして寝た、夢に若松がでてきた。
次の日、いつも通り登校し四時間目が終わった後、美術の先生に画材運びを頼まれた。私と沙奈は美術選択だから先生とは仲が良かった。私も沙奈も大丈夫ですよーと言ったが、今日のお昼は若松がいないのだ。堀が沙奈と２人っきりになれるチャンスだと思い、
「先生に用があるから、運ぶのは私だけで大丈夫だからお昼ご飯食べて来て、私のことも堀に伝えといて」
と言った。これで確実に沙奈と堀は会う。
「わかったー、重かったらラインしてー」
と沙奈が言って、教室に帰っていった。
職員室について「じゃあ相川さん、これ美術準備室に運んでー」
と絵の具の入ったダンボールを渡したので、私は少しやばいと思った。美術準備室は音楽室の隣で、そこは今日若松が呼び出しをうけている。私は先生からダンボールと、お礼にと言ってくれたチョコレートを受け取って急いで美術準備室に行くことにした。早く行けば大丈夫だよね....
１時、少し前に美術準備室に着いたがまだ廊下には誰もいなくて安心した。準備室に入って言われた場所にダンボールを置き、出ようとしてドアに手をかけたら、昨日の女の子の声がした。
遅かったー。お昼休みの芸術教室の並びは静かで、ここにいたら全部聞こえる....。
「若松先輩、来てくれてありがとうございます」
「いやいや、全然ー」
と若松は返した。今の若松はきっと柔らかく笑っているだろう。悪魔か、今から振るくせに。と心の中で毒づいた。
「若松先輩、好きです！付き合ってください！」
女の子はたぶんすごく頑張っているんだろう。声が震えている。でも若松はさらっと
「ありがとう、でもごめんね、付き合えない」
と断った。いつもこんなふうに断っているのだろうか。優しく断るんだな。と思って、昨日の夜の自分の感情を思い返して、なぜか怖くなった。私が告白してもきっとこんなふうに断られるんだろう。
そう思って、あーそっか。と腑に落ちた。私は若松との関係が本当に大事なんだ。だから恋愛には絶対なりたくないんだ。だから、だから....
そう考えていたら、女の子が
「そうですよね、聞いてくれてありがとうございます。」
と悲しそうに言って
「先輩は好きな人いるんですか」
と聞いた。
「いるよ」
と若松は少し寂しそうに言った。その後は私は聞かない方がよかったのかもしれないけど、聞いてしまった。
「相川先輩ですか？」
「そうだよ、ずっと片思いだけどね」
たぶん若松は笑ってるんだろうな。その後女の子は何か言って走って帰ったみたいだ。
若松が窓を開けた音が聞こえた。きっと私は若松の気持ちを知っていた。知っていたけど、知らないフリをして、この関係を保とうとしていた。そして自分の気持ちも恋愛の方に向かないようにしていた。
私は本当に最低だ。若松に甘えていた。若松と話さないと。
そう思って、準備室から出たら若松はまだ窓にいて、出てきた私に驚いた。
「聞いてたの？」
「うん、でもここに来たのはわざとじゃないよ」
「それはわかるよ、陽楽はそんな人じゃないからね笑」
若松は初夏の風に吹かれて優しく笑った。そして、
「安心しな、俺は告白したりはしないから」
と寂しそうに続けた。
「うん、ごめん....ありがと」
と私は言った。違う、本当に言いたいことはこれじゃない。
「お昼食べに行くかー」
と若松は言ってくれた。
やっぱり若松優しい。私はちゃんと言わなきゃと思った。
「私、そんな若松好きだよ。恋愛かどうかわかんないけど。若松の気持ちも嬉しい」
若松は驚いて
「まさか陽楽がちょっとでもそう言ってくれると思わなかった....気持ち伝えたら、嫌がられると思ってた....」
と言った。若松も私が若松との関係を大事に思ってるのをわかっててくれていた。だからこそ今まで若松にひどいことをしていた。
だから私は若松をまっすぐ見て
「私、ちゃんと向き合うよ。まだはっきりできないけど、たぶん私も若松が好きだから」
若松は笑顔で
「ありがと、嬉しすぎて抱きしめたいわｗ」
とふざけた。
「私の気持ちがはっきりしたら、その時は私から抱きしめるよ」
「わー何それ待ち遠しいわ」
もう少し今の関係が続きそうだな。でもきっとその後の関係は、もっといいものになる、そう思った。
「陽楽、ご飯行くぞ！」
「今、堀と沙奈が２人っきりだから」
「あ笑 じゃあ食堂行くか」
「うん」
きっと若松となら、友達って関係じゃなくても大丈夫だ。
初夏の風を背中に受けて、私と彼の関係は少しだけ変わった。
ただの、は少し語弊があるかもしれない。
高１の初め、彼は私の席の前だった。
彼は若松千尋と言う。私は相川陽楽(ひらく)と言う変わった名前をしている。
高１の入学式の次の日にすること何て、まずは自己紹介だ。もちろん若松の後に私なのだが、若松は後ろを向いて私を凝視していた。そして私が「相川陽楽、太陽の陽に楽しいでひらくと言います」と言ったら、すごく嬉しそうにしていた。
私の自己紹介が終わってすぐ、
「陽楽、ひらくって言うのかー昨日からずっと何だろうって考えてたー」
と気さくにふにゃっと笑った。
「変わった名前って良く言われる」
「俺はよくありそうな名前って言われる笑」
そんな感じで若松とは仲良くなった。
私は彼を若松と呼び、彼は私の名前が気に入ったのか、初めから陽楽と呼んだ。
高２になってクラスは離れたが、変わらず仲良しでいる。
若松はモテるまではいかないが、かっこいいとは言われ、高１の夏と秋には告白され、バレンタインにはなかなかの数のチョコレートを貰っていた。
でも若松は告白や好意を全部やんわり断ってきた。
私は以前若松に聞いたことがある。
「若松は彼女をつくんないの？」
そしたら笑顔で、
「今はいらないかなー、俺がいなくなったら陽楽が寂しがるからー」
とおどけて言った。
「馬鹿じゃないの笑 寂しいわけないじゃん」
「またまたー」
と言っていたが、私は少し嬉しかった。
若松との距離は心地良い。付き合うわけではなく、お互いにそこまで干渉するわけでもなく、さらっとした関係である。ただ、私が何かを話したい時、必ず若松は柔らかい笑顔で優しい声でうんと言いながら聞いてくれる。そんな若松との関係が、私にはすごく大事だから、若松が彼女をつくってしまったらこの関係が崩れてしまうんではないかと思う。
だからこそ、若松が「今はいらないかなー」と言ったら嬉しかった。決して若松に恋をしているわけではないけど。
今は高２の七月、暑さのピークはもうちょっと先だ。もう半袖の人もかなりいる。
「ひらく〜帰ろ〜！！！」
と言ったのは、高１から同じクラスの伊藤沙奈だ。沙奈は背が高くてスラッとしていて、モデルみたいだ。
「ごめんー、今日若松とパフェ食べに行く、沙奈もくるかい？」
と私が聞いたら、
「おーそーか若松くんかー」
とニヤニヤ笑った。
「またそんな顔して....若松とは何にもないよ....」
「いやー、何にもないと思ってるのはひらくだけかもよ〜？笑」
と沙奈はよくこんなことを言う。
「まぁ頑張って☆今日は私は帰らせていただきまするー」
と言って沙奈は先に帰っていった。
若松のクラスのSHRはいつも一番遅い。松下先生という、理系化学の先生なんだが、この人は話が長い。一年生の時の授業は辛かったな。今は文系で化学は選択だから私はとっていない。
若松のクラスの前で若松を待っていると、わりと早くSHRが終わった。
「陽楽ー、すぐ行く？」
「うん、早く行こ」
と言って二人で行こうとしたら、若松のクラスの人が、「また千尋は陽楽ちゃん連れてー」とか「相川さんはお前の彼女か！！」と若松をからかった。
まぁこういうことはよくある。勘違いはよくされる。それを若松も私もあまり気にしていない。
「ちげーよ笑 佐藤達は陽楽の見た目に騙されすぎｗ」
と言って歩き出してしまったので私も歩き出した。
玄関で若松は一年生の女の子に声をかけられていた。下駄箱は反対側で見えはしなかったが、声が聞こえた。
「若松先輩！明日のお昼休みに音楽室前に来てほしいです！！」
頑張ってふりしぼって出した女の子の声だった。若松はたぶん笑顔で
「わかったー、１時頃でいいかな？」
と言った。女の子は
「はい！お願いします！」
と言ってきっと友達もいたんだろう、２人分の走る音が玄関から遠ざかっていった。
そんな告白するので来てくださいって感じの呼び出しを受けたのに、若松はテンション上げるわけでも自慢気でもなく、
「陽楽行こ」
といつも通り言った。私はこんな若松をたまに不思議に思う。
学校からでて、そこそこ近い場所に新しくカフェがオープンした。そのことを話たら、若松が行こうと言ってくれたので今に至る。
私はチョコレートのパフェ、若松はチーズケーキを注文した。
「若松、チーズケーキ好きだよねー」
「うん、ケーキで一番好き。陽楽はいっつもチョコレートだよな」
「チョコレートが好きだから」
「確かにｗ俺のバレンタインに貰ったやつ半分は陽楽が食べたからなｗ」
と笑った。そりゃあそうだろう、私はチョコが好きで食べたと思ってるのかもしれないが、(実際それもあるけど)若松はチョコレートが苦手なんだ。のくせに笑顔でチョコレートを受け取っていた。だから私は半ば呆れながら若松のチョコレートを食べた。それを知らない女の子達は可哀想だったなと思う。
そんなことを考えていて話題を今日の女の子の話に移した。
「そー言えば、若松明日女の子に呼び出されたね。どーするの？」
「どーするって行くよ？」
「いや、そーじゃなくて、告白をどーするの？」
あー、そーゆーことって感じで若松はさらっと、
「断るよ」
と言ってチーズケーキを食べた。
「またかー、もったいないなーモテ期終わるよ」
「うるせーｗいいの、俺はこれで笑」
「どれだよ」
「これこれ」
と意味のわからないことを言った。
「じゃあ明日のお昼は３人かー」
「すぐ終わるだろー」
お昼ご飯はいつも、私と沙奈と若松と堀と言う男の子で食べている。一年生の時に特別仲の良かった四人だ。堀は沙奈に片思い中で、堀のアピールも沙奈には全然伝わらなくて。それを見て私と若松はニヤニヤしていた。
「陽楽はどーなの？」
「どーとは？」
若松は話を急に私に移した。
「彼氏とか、好きな人は」
「彼氏がいたら、若松とパフェ食べに来てないし。好きな人はいないかな。」
そう私が言ったら、ふーん、と微妙な顔をした。
「この前の、Ａ組の人は？」
「あー、話したことなかったし、断ったよ」
と言うと、少しホッとした顔をした。
若松はたまに、こんな事を私に聞いてくる。そして微妙な反応をしたり、時には嬉しそうにする。若松のその反応が疑問に思う。私達の関係は恋愛じゃない。たぶん若松もそれははっきりわかっている。それなのにそんな反応されると怖くなる。もし、万が一....考えたくないし、それがないのもわかっているが....
色々話をしていたら６時になっていた。初夏の６時はまだまだ明るい。若松と地下鉄に乗り、私の方が早く降りる。若松が優しく笑って「じゃあまた」と手を振った。「うん、じゃあまた明日」私も手を振って地下鉄を降りた。若松のその顔が私は大好きだ。
その夜は若松の事を少し考えた。断ると言ったがもし、若松と誰かが付き合ったら、私達の関係は崩れるのかな。もし、万が一があれば、私達はどうなるのかな。
私が若松を好きになったら、若松はその気持ちに答えてくれるかな？と考えて、あれ、何考えてるんだろう私。とその疑問を打ち消した。
色々考えていたが、嫌になってやめた。そして寝た、夢に若松がでてきた。
次の日、いつも通り登校し四時間目が終わった後、美術の先生に画材運びを頼まれた。私と沙奈は美術選択だから先生とは仲が良かった。私も沙奈も大丈夫ですよーと言ったが、今日のお昼は若松がいないのだ。堀が沙奈と２人っきりになれるチャンスだと思い、
「先生に用があるから、運ぶのは私だけで大丈夫だからお昼ご飯食べて来て、私のことも堀に伝えといて」
と言った。これで確実に沙奈と堀は会う。
「わかったー、重かったらラインしてー」
と沙奈が言って、教室に帰っていった。
職員室について「じゃあ相川さん、これ美術準備室に運んでー」
と絵の具の入ったダンボールを渡したので、私は少しやばいと思った。美術準備室は音楽室の隣で、そこは今日若松が呼び出しをうけている。私は先生からダンボールと、お礼にと言ってくれたチョコレートを受け取って急いで美術準備室に行くことにした。早く行けば大丈夫だよね....
１時、少し前に美術準備室に着いたがまだ廊下には誰もいなくて安心した。準備室に入って言われた場所にダンボールを置き、出ようとしてドアに手をかけたら、昨日の女の子の声がした。
遅かったー。お昼休みの芸術教室の並びは静かで、ここにいたら全部聞こえる....。
「若松先輩、来てくれてありがとうございます」
「いやいや、全然ー」
と若松は返した。今の若松はきっと柔らかく笑っているだろう。悪魔か、今から振るくせに。と心の中で毒づいた。
「若松先輩、好きです！付き合ってください！」
女の子はたぶんすごく頑張っているんだろう。声が震えている。でも若松はさらっと
「ありがとう、でもごめんね、付き合えない」
と断った。いつもこんなふうに断っているのだろうか。優しく断るんだな。と思って、昨日の夜の自分の感情を思い返して、なぜか怖くなった。私が告白してもきっとこんなふうに断られるんだろう。
そう思って、あーそっか。と腑に落ちた。私は若松との関係が本当に大事なんだ。だから恋愛には絶対なりたくないんだ。だから、だから....
そう考えていたら、女の子が
「そうですよね、聞いてくれてありがとうございます。」
と悲しそうに言って
「先輩は好きな人いるんですか」
と聞いた。
「いるよ」
と若松は少し寂しそうに言った。その後は私は聞かない方がよかったのかもしれないけど、聞いてしまった。
「相川先輩ですか？」
「そうだよ、ずっと片思いだけどね」
たぶん若松は笑ってるんだろうな。その後女の子は何か言って走って帰ったみたいだ。
若松が窓を開けた音が聞こえた。きっと私は若松の気持ちを知っていた。知っていたけど、知らないフリをして、この関係を保とうとしていた。そして自分の気持ちも恋愛の方に向かないようにしていた。
私は本当に最低だ。若松に甘えていた。若松と話さないと。
そう思って、準備室から出たら若松はまだ窓にいて、出てきた私に驚いた。
「聞いてたの？」
「うん、でもここに来たのはわざとじゃないよ」
「それはわかるよ、陽楽はそんな人じゃないからね笑」
若松は初夏の風に吹かれて優しく笑った。そして、
「安心しな、俺は告白したりはしないから」
と寂しそうに続けた。
「うん、ごめん....ありがと」
と私は言った。違う、本当に言いたいことはこれじゃない。
「お昼食べに行くかー」
と若松は言ってくれた。
やっぱり若松優しい。私はちゃんと言わなきゃと思った。
「私、そんな若松好きだよ。恋愛かどうかわかんないけど。若松の気持ちも嬉しい」
若松は驚いて
「まさか陽楽がちょっとでもそう言ってくれると思わなかった....気持ち伝えたら、嫌がられると思ってた....」
と言った。若松も私が若松との関係を大事に思ってるのをわかっててくれていた。だからこそ今まで若松にひどいことをしていた。
だから私は若松をまっすぐ見て
「私、ちゃんと向き合うよ。まだはっきりできないけど、たぶん私も若松が好きだから」
若松は笑顔で
「ありがと、嬉しすぎて抱きしめたいわｗ」
とふざけた。
「私の気持ちがはっきりしたら、その時は私から抱きしめるよ」
「わー何それ待ち遠しいわ」
もう少し今の関係が続きそうだな。でもきっとその後の関係は、もっといいものになる、そう思った。
「陽楽、ご飯行くぞ！」
「今、堀と沙奈が２人っきりだから」
「あ笑 じゃあ食堂行くか」
「うん」
きっと若松となら、友達って関係じゃなくても大丈夫だ。
初夏の風を背中に受けて、私と彼の関係は少しだけ変わった。
