「こりゃ大変やな」
「鈍感すぎるやろ」
2人がそう呟いて笑う。その笑顔は昔と変わらず懐かしいばかりやった。
「なあ、亮助」
勝っちゃんが俺に小さく聞いた言葉。
「まだ…思い出さへんの?」
いや、きっと思い出さへん方がええねん。
鈴子が記憶を消したんは、自分を守ろうてゆう“自己催眠”みたいなもんやって鈴子のおとんから聞いた。
そんなん自転車の後ろが乗れない、それだけで充分わかってる。
せやけど、…勝手やけど、俺は思い出して欲しい。
あのオルゴールも、あの約束も。
“りーくん、泣かないで”
そんな俺の気持ちとは、裏腹に8年前の記憶は彼女の中に眠ったまま、まだ醒めない。