「では!新しい家族に乾杯!」
グラスがカチャン、と音を立て重なり合うのを横目で見て、あたしは合わせる前にグラスに入ったオレンジジュースを一気に飲み干した。
誰が祝ってなんかやるか!という少なからずの反抗。くそう、こんなんじゃ全然気分が晴れない。
「そういえば、明日からだったな。亮くんの学校」
「あ、はい」
忘れてた!こいつあたしと一緒の高校通うんだった。
…でもクラスもたくさんあるし、一緒のクラスになるのは10/1の確率だ。登下校さえ被らなければ、
「鈴子、ちゃんと案内してやるんだぞ」
………もう最悪。誰が一緒になんか行くもんですか。一人で行って迷子になっちまえ。
「そんなのい…痛!」
その瞬間ぎゅうう、と太股をつねられる。それも痛すぎる内腿部分を思い切りだ。もちろん犯人は奴しかいない。セクハラとかそんなんじゃなくて、本気で痛い。
「そ…そんなのあたりまえじゃん」
「よかったな!亮くん」
「はい、本当に鈴子さんが優しくてよかったです」
なんて奴だ。暴力反対、ぶりっこめ。優しくて、って強引に優しくさせてるんでしょうが。
なんで誰も気づかないの。涙目になってるアタシを。化けの皮被ったアイツを。
ああ、明日優大に泣こう。優大ならきっとアタシの気持ちを痛い程わかってくれる。化けの皮被った奴の本性をわかってくれる筈だ。
そしてそんな男と一つ屋根の下で暮らすあたしの為にきっとあの馬鹿親父に言ってくれるに違いない。
馬鹿親父は優大のいう事は簡単に信じる単細胞。
つまり、イコール。
「あは、あは、あはは!」
「鈴子さん、大丈夫ですか?」
「母さん、また鈴子が壊れたぞー」
「まあ、でもいつもの事ね」
そう、奴は家から消え失せ、あたしは明後日からハッピーライフを送れるに違いない。
グッバイ亮助、とニッコリ笑ってやる。
そして待ち焦がれるサマーホリデーをエンジョイするんだ。