「おう、ただいま」
「おまえなあ、給料要求するぞ。日給5万円」
「高ぇよ」

サトは冗談だよと笑って、葵ちゃんが居間で絵、描いてるぞと顎で示した。





「ああ、また何か描いてるんだ」

俺はサトにケーキの箱を渡しながら、部屋に入って汗をかいたTシャツを脱いだ。シャワーを浴びたいとも思ったけれど、とりあえず適当に着る。

サトはそうなんだよと、ケーキの箱の中をのぞき見ながらあいまいに返事をした。


「今回のはなんていうか、ひまわりとか空を主体にした抽象画っぽい。ただ見たままを書いたんでもなくって、なんつーか、俺絵のことはよくわかんねえけどさ、それでもすげえって感じ」


そのサトの言葉を聞いて、俺は礼次郎さんの名前を口に出してみた。


「そうだ、お前西門礼次郎って知ってるか」

「西門礼次郎?」



サトは顔をあげて、そのまま天井を見た。
考え込むように顎の下に手をやって、あーとかえーとか唸っている。

「ちょっとまてよ、聞いたことある名前だな…えーっと……ああ、確か俺の親父が好きな画家だったな。ニシカドレイジロウ。たまに個展とかやってる有名な画家なんだろ?」

「なんだ、おじさん絵が好きだったなんて話はじめて聞いたな」

「ああ、結構最近凝りだして。で?西門礼次郎がどうした?」

「ああ、実はなー、まあいろいろあって、葵の絵をその人が気に入っちゃって」




俺がその経緯を簡単に説明すると、サトはずげーなと目を丸くした。