歩の彼氏が帰ってから僕の頭の中は最後の言葉が浮かんでは消えてを繰り返している。
僕と歩は付き合わない方がいい?
歩のことを想うなら別れる?
あの人は一体何を根拠にあんな風に言い切ったんだろう…。
僕と歩の間に何か関係がある?
僕はパソコンを広げ実家に連絡をした。
画面の向こうに母親が顔を出した。
『ごめん…寝てた?』
「ううん、どうしたの?元気にしてた?」
母さんは女手一つで僕を育ててくれた。
こんな耳になった僕のことで両親は喧嘩が絶えなくなり、僕が小学校を卒業する頃離婚した。
耳がこんな風になる前は家族でこの街で暮らしていた。
事故に遭って障がい者になった僕の事を思い両親は事故に遭ってから間もなく引っ越しした。
その街に大学の事もあって一人暮らししたいと伝えた時、母さんは反対した。
でも僕自身殆ど覚えていない記憶の事を心配されても…と思った。
説得してこの街に戻ってきた。
『うん、元気…母さんも元気?』
「えぇ元気よ。」
そう言って母さんは笑って僕に向かってガッツポーズをして見せた。
『母さん…今日は聞きたい事あって…』
「なに?」
『この街に住んでた時の事なんだけど…。』
僕の言葉にわかりやすい程表情変えた。
眉間に皺を寄せ怪訝な顔になった。
『井伊垣さんて知ってる?』
フッと顔がほころんだ。
「ううん知らないけど…誰なの?」
『いや…知らないならいいんだ…本屋で声かけられて…』
「そう…ご近所さんだった人かもしれないわね…。」
『そうだね…あっ明日朝からバイトなんだ…そろそろ寝るよ。』
「体に気をつけるんよ。じゃね、おやすみ。」
僕はパソコンの電源を落とした。
母さんは歩の苗字を知らないと言った。
じゃ以前この街で暮らしてた時には接点がないってことになる。
じゃあの人が言ったのは、どうゆうことなんだろう…。
僕は気になって歩にメールをした。
でもそのメールの返事はいくら待っても返ってこなかった。
その次の日も、そのまた次の日も連絡はなかった。
登下校の時間交差点に行ってみたけれど会えなかった。
3日経った夕方、歩とよく一緒に居る友達を見かけた。
隣に歩の姿はない。
僕は彼女の肩を叩いた。
「八雲…さん??」
顔を近づけて確認された。
『歩は…なんかあったんですか?』
彼女は歩と違って近づくと見えるんだとわかって、メモに書いて見せた。
また近づいて文字を読むと彼女はこちらに顔を向けた。
「歩なら3日前だったかな…熱が出て休んでますよ。」
歩が…熱?もしかして、あの日何かあったのか?
「歩から八雲さんの事聞いてます。今から行くところなんですが…伝言あるならしましょうか?」
彼女の申し出を受けた。
メモに書いて彼女に渡した。
1枚目は《君が読んで伝えてほしい。》と書いた。
2枚目に歩に伝えて欲しい事を書いた。
「はい、わかりました。ちゃんと伝えます。」
そう言って彼女は歩がいつも帰って行く方向へと歩いて行った。