ふー。


肩に力が入っていたのだろう。


思わず大きく息を吐き出した。


 あの小悪魔な紗桜見てると、忘れちゃうけど、紗桜って本当にお嬢様なんだよね……。


 あたしからしたら、世界が違うよ……。


 紗桜はお嬢様であることを自慢したりしない。


 気取るわけでもない。


 それでも、紗桜のまとうオーラは、確かに専念されたお嬢様のオーラだった。


 高校に入学して、同じ中学から進学してきた人が1人もおらず、あたしは一人ぼっちだった。
 
 友達はほしかったけれど、既にグループが出来上がっていて。


中学では、全員が保育園のときからの幼馴染という状況だったあたしにとって、『友達ってどうやって作るんだっけ?』という状態。


 そんなとき、紗桜が数人の友達との昼食にあたしを誘ってくれたことがあった。


最初は正直紗桜が怖くて上手く話せなかった。


けれど、紗桜は自分がお嬢様であることを隠すことはせず、かといって威張り散らすことなどしなかったんだ。


その紗桜の堂々とした姿に、どうしようもなく憧れた。


紗桜を見ていたら、自分が恐れていることが、くだらないことだと思えてしまった。


だから、あたしも自分を偽り、隠すことはせず、かといって押し出しすぎもせず、上手く自分のことを話すことができたんだ。



 そのときから、紗桜はあたしの大親友だ。


 
「あー、続き気になる!」



 わざと大きな声で、ひとり言を言う。
 

 今日、紗桜の誘いを断った理由である、一人で世界観に浸ること。


 それを……。

 
通学路の途中にあるお気に入りの公園のベンチで、小説を読んじゃいます!


紗桜に歩きながら読むことも禁じられたしね!



「ここ、一人で読書するには抜群なんだよね~」



 またまたひとり言を言いながら、定位置につく。


 もう通い慣れてしまったこの公園は、ベンチが一つと、ブランコがあるだけの寂しい公園だ。


 ただ、自然が残されていて、とてもキレイ。


 公園は、森に隣接していて、最近森が公園を侵食してきている気がする。


 でも、あたしがいつも座るベンチは、かろうじて森に飲み込まれていないため、気にしないことにした。


ベンチの脇に立った街灯がスポットライトで、ベンチをまるで舞台に上がった主役のように照らし出していた。


 ワクワクしながら、小説を鞄の中から取り出す。