「私は車で帰るけど、麻央も乗っていく? 家まで送るわよ」


 わずかに空が赤く染まり、キレイなグラデーションが広がっている。


 紗桜は、執事が迎えに来たようで、彼女の後ろには、黒塗りの高級車が控えている。


 ……お嬢様。


普段一緒に過ごしてて、気取ったところも特にないからついつい忘れちゃうんだけど……。


 お、恐れ多い!



「あ、あたしは今日はいいや」



 あたしは頭をブンブンと振り、誘いを断った。


 たまぁーに乗せてもらったりするけど、今日は小説を一人でゆっくり読みながら、その世界に浸りたい。


 だから、誘いを断った。


 どうやら事情を察してくれたらしく、紗桜は優しく微笑むと、



「わかったわ、さよなら、麻央。 また歩きながら読んじゃダメよ」

「はーい……」



 紗桜は去り際にしっかりとあたしを注意すると、執事に扉を開けてもらって高級車に乗り込み、去っていった。