中学の頃、リラックス効果があるからと夏バテの私にお父さんが勧めてきたジャスミンティー。
そのグラスを、ソファーに座る郁人くんの目の前に置く。
「……話って?」
隣に腰を下ろすと、郁人くんは長いまつげを伏せる。
グラスを見ているけど、どこか違うところを見ているような気がしてならない。
「……俺さ、子供んときから身体が弱かったんだ。外で遊べばすぐに熱を出す。だからずっと家の中にいた。
人と関わるのも、おふくろと兄貴みたいなごく少数の家族と、医者くらいのもんだった」
「お父さんは?」
「出て行った。俺がちいさい頃に」
聞いているこっちも辛くなるような話を、郁人くんは淡々と話す……。