何も聞こえていないように、郁人くんはただ床を見つめている。

 が、前触れもなくバッと顔を上げられ、伸ばそうとした手を引っ込める。



「俺、朝ごはんいらないから」


「どうして? もうすぐできるのに」


「食欲が湧かない」


「体調が悪いんだったら、尚更食べて体力をつけなきゃ」


「アンタに指図されるいわれはない。もう俺に関わんな。部屋にも来んな。いいな」



 反論の隙も与えられないまま、立ち去る郁人くんの背中を呆然と見送るしかない。