「……なーんて。言葉にするのは簡単なんですけどね。

 今、真之さんや私の置かれている状況はよくわかっているつもりです。ワガママは言えません。ごめんなさいね、真之さん……」



 申し訳なさそうに俯く彼女へ、静かに頭を振る。



「確かに今はまだ無理ですけれど、きっとすぐですよ」



 彼女と共に歩める道がある。


 辿り着くまでそう時間はかからない。


 僕はその道を目前に、待ち遠しくてたまらなかった。



「そんなに寂しそうな顔をしなくても大丈夫。少しずつ進んで行けばいいんです」



 焦ることはない。


 未来に向かい、2人でしっかりと今を歩んでゆくのだ。



 彼女は頷いて僕の胸に顔をうずめる。


 そのとき、白衣のポケットに入れていたたまごをそっと包み込んだ。