ここで、言葉を切る郁人くん。


 まばたきをひとつして、胸倉を掴んだ右手首へ、ふいに手を添えた隼斗を見つめる。


 ……フッ、と、笑い声が聞こえた直後。



 ――ゴッ!!



 華麗な右ストレートが、郁人くんを直撃。



「きゃあああっ!! 郁人くんっ!?」



 隼斗が、郁人くんを殴り飛ばした。


 それだけでも驚きなのに、誰が予想できただろうか。



「……ふ……くく……はははははっ!!」


「え……」



 ……あの隼斗が、高らかに笑い声を上げるなんて。



「俺をブン殴るとは、少し見ない間にずいぶんと利口になったじゃねぇか、郁人」



 さっきまでが幻だったように、真っ直ぐ郁人くんを見つめる瞳。


 隼斗は今一度、拳を郁人くんの頭にぶつけた。今度は軽く。



「いだっ」


「結構効いたぜ? 目が覚めた。……サンキュ」



 それは、今まで人形のようだった人物とは思えないくらい、血の通った笑みだった。