「………」


「郁人くん、駄目だ、馬鹿なことを考えてはいけない」


「俺………行くよ。状況はあまり変わらないけど、兄貴がこっちに来たほうがいくらかいいだろ。……治してやってくれよ。父さん」


「郁人くん!」



 八神さんの訴えもむなしく、郁人くんは歩き出す。


 それを、満足そうに眺める宗雄さん。



 悪魔が笑う。



 私は唇を噛む。


 私は……見ていることしか出来ないの?



「聞き分けのいい子だ。俺のところで可愛がってやる」



 ドンッ、と隼斗が突き飛ばされ、郁人くんが引っ張られた。



「隼斗っ!」



 駆け寄って覗き込んでも、彼の瞳は虚ろなまま。


 これで私たちは、用済み。


 ……覚悟を決めた、そのとき。