「やめてくれっ!!」
張り詰めた空気を、悲痛な叫びが引き裂く。
「この家の財産がほしいならくれてやる! だから俺たち家族を引き離すのはもうやめてくれ!」
「だが郁人くん! ここは彩子さんが生まれた大切な家だ!」
「そんなのはどうだっていいんだよッ!!」
投げ槍になったのではない。
「前に言ってくれたじゃんか。『命を大切にしない人は嫌いだ』って。そうだろ? …………父さん」
たっぷり水を張った瞳に、少年が映し出すのは――やっと向き合えた、かけがえのない人。
八神さんの瞳は揺れ動き、伸ばした手のひらが宙を滑る。