「だから親父、俺は!」
「郁人、いい。もういいんだ。……わかってくれたのなら、それでいい」
「え」
「そうか……知ってしまったか。もうお前は子供ではないな。
……ここまで、本当に長かった。やっと俺の後を任せられる」
宗雄さんの言葉を、郁人くんはどのくらい理解したんだろう。
まばたきを忘れた瞳を見る限り、あまり思わしくないよう。
それでも宗雄さんは続ける。
「俺はな郁人、お前が医者を目指すと言ったとき、涙が出るくらい嬉しかった。
俺の跡を継いでいい医者になれる。お前は賢い。きっと上手くやるだろう。
……だがな、ひとつ覚えておけよ。医者は医者でも、八神のような医者になってはいけない」
身震いがしたのは、入り込んできた夜風のせいだけじゃない。