「郁人くん! もう……」


「セラは黙ってろ!

 おふくろが自分のこと好きじゃないって知ってても、親父は帰って来てくれた。一緒に住もうって言ってくれた!

 親父が、アンタと関わるなって言った意味がよくわかった!」



 その一言で、八神さんがサッと血の気をなくす。



「宗雄さんが、そんなことをっ……!」


「言われたんだ! 信じられなかったけど……信じたくなかったけど、もう全部納得した!

 親父が言ったように、アンタが俺たち家族の人生を狂わせたんだ!!」


「待ってくれ! それは……!」


「うるさいッ! 誤解だなんて言われても今更信じられない! 俺に話しかけんな!!」


「待って郁人くんっ!」



 言葉の終わりを待たずに、八神さんを睨みつけた郁人くんは、扉を突き破るように部屋を飛び出した。



 思わず立ち上がり、グッと息を飲み込む。



 恐る恐る振り返ると、膝の上で震える拳を見つめたままの八神さんの姿がある。



「行ってあげて。ここには、僕がいるから」



 痛い沈黙を破ったのは、若葉くん。



 後ろ髪を引かれる思いではあったけど、私は頷き、駆け出した。