「……私と彩子さんが初めて出会ったのは、大学生のときです。彼女は病を治療するために、私が所属していた医大を訪れて来たのです」



 視線は伏せたまま、言葉だけがポツリ、ポツリ。


 一滴も零さぬようにと誰もが聞き入り、針の落ちる音すら聞こえる静寂が訪れる。



「最初は、よい友人でした。それが触れ合っていくうちに、いつしか、互いを想い合うようになったのです。

 ……確かに私たちは愛し合っていました。けれど、彼女は宗雄さんと結婚をした」


「どうして……」


「彼女の家は、代々続く名門家です。親の取り決めでない縁談は即、破棄された。

 結局、私たちは諦めるしかなかった。それでも離れることができなかった……私たちは、ご両親の目を盗んで密かに会っていました」


「それって、もしかして……」



 ……不倫。