「タダ先生の『立派な医師』の基準って、大きな病院に勤めてることじゃない。

 小さな医院でも、たくさん患者さんを救えるような人なんだろ。だからここ始めたんだって、昔教えてくれたじゃんか」


「郁人くん……?」


「……本当は親父のこと、どう思ってるの?」



 泣きそうだった。


 けれどここで泣いてはいけないから、精一杯問う。



 タダ先生はしばらく黙っていた。


 刺すような視線に降参したのか、やがて呟く。



「……ひどい人だと思うよ。君たち親子を置いて行った、とてもひどい人だ」



 人が好きかと問われれば、是と答える。


 人が嫌いかと問われれば、否と答える。



 ……昔から、そんな人だった。



 その人が今、唯一の例外を口にした。


 それは多分、本能的に気に食わない相手……疎ましい相手だから。