「大人しくしてりゃ、少しはマシだったのになぁ?」



 覆いかぶさる影が大きくなり、男の息がかかる。



 もう……ダメ。



 どこからか夜風が吹く。


 揺れる木々と、小枝の擦り合う音しか聞こえなくなった。



 不気味なさざめき。


 深い闇。


 ……そして。





「――誰に手ぇ出してる?」





 突風が吹いたと同時に、重く鈍い音。



「……かは……っ!?」



 恐る恐る目を開ける。


 宵闇の中、驚愕に見開かれた男の瞳だけが不気味にギラついていた。


 それさえも、男を突如襲った一撃によって視界から消え失せる。



「ご丁寧にも暗がりを襲うとは、肝の据わったヤツだ」



 やがて目の前に現れた彼……壬生狼は、研ぎ澄まされたどんな刃物よりも鋭く言い放つ。



「食い殺される覚悟は充分か?」