真っ赤な顔をふいと逸らし、郁人くんは無言でソファに座った。


 私は鞄を置いて、その隣に腰かける。



「郁人くん」


「どうせ腰抜けだよ。叩き出すはずの兄貴のことでメソメソ帰ってきたなんてな。笑いたければ笑えよ。カッコ悪いだろ。こんなの……」



 沈んだ声に胸がズキンと痛んだ。



「笑ったりするもんですか!」


「……な」


「私は、郁人くんが誰かに心配をかけるのを嫌がってるの知ってるもの!

『心配だよ』って言うとダメだから、絶対心の中にしまっておこうと思ってたんだから!」


「……言ってるけど」


「郁人くんが変な意地張るから、言わなきゃいけなくなったの!」