彼女の名前を呼んで、自分だけ満足していた。


 しかし気づいてしまったのだ。



 願わくば、昔のように名前を呼んでほしい。でも。



「言えないよな……」



 呼んでくれと言えば、彼女は呼んでくれるかもしれない。


 だがそれでは駄目なのだ。


 そこは自分の変なクセで、大切な彼女を独り占めしたいのに、強制するのは嫌だという点。


 相反する感情がぶつかって、悩みの種である。



 追い打ちをかけるかのごとく、冷えた夜風が吹き付ける。