「……なぜ私に?」



 低い声が返ってくる。

 といっても不機嫌などではなく、もともとの声質である。



「決まっているでしょう。あなたの担当学級に該当生徒がいるからです」


「さぁ。私には何のことかわかりませんが」


「何を仰います! ただでさえ不良生徒の多い2年部で、彼らの頂点となる問題児がいるではありませんか!」


「それは、紅林瀬良のことですか?」


「ほかに誰がいると言うんですっ!」



 周囲の教員が固唾を呑んで見守る険悪な空気の中、土屋はしかし眉ひとつ動かさない。