「あ……ずいぶん時間取っちゃったな。ごめん」


「気にすることはないよ。ただ、君も準備があるだろう? 退院して、落ち着いたときにまたおいで」


「うん……そうだね」



 郁人が頷いたのを確認すると、八神は部屋を出た。


 ドアを閉めて、廊下に立ち尽くす。




「……あなたのお子さんは、とても立派に育っていますよ」




 手のひらに残った温もりに、どうしても探してしまう面影がある。


 だからこそ、私はあなたを忘れることができないんです。


 そう言って、また天国の彼女を怒らせてしまうのだろう。