本当に辛い人ほど、言葉で助けを求められないと私は知っているから、見過ごしたくない。


 城ヶ崎が背を向ける。

 振り返ろうとはしない……が。



「……俺には、俺たちには、家族なんていない」


「え?」


「いないんだ。……もうここには来るな」



 それはどういうことなのか?


 訊ねる前に、城ヶ崎は薄暗い廊下の向こうへ姿を消す。


 もどかしさは募る一方だけど、何か大切なことを教えてくれたと、私はこのとき感じた。