「郁人くんから聞いたんだけど、霧島――彩子さんの実家は資産家で、旦那さんの宗雄さんは婿入りしたらしいの」


「確かに、表札も霧島だったね」


「でも、彩子さんと宗雄さんは離婚していないそうよ」


「……どういうこと? 日本は夫婦同姓が原則でしょ。普通に考えれば宗雄さんが霧島姓に変わるはずじゃない?」


「私もずっと考えていたの。一家の大黒柱だもの、仕事上通称として旧姓を名乗ってるのかなって考えたんだけど、違うみたい」


「宗雄さんが今も城ヶ崎姓のままだって?」


「ええ。現に城ヶ崎はお父さんの姓を名乗っているわ。戸籍上はまだ有効なのかも」


「待って。城ヶ崎と郁人くんの苗字が違うっていう理由になっても、それは法的にあり得ない」


「そう考えると、今まで考えたことは全部説明がつかなくなってしまったの」


「じゃあどうして……」



 難しい表情で考え込んだ若葉くんは、ハッとしたように顔を上げる。