やわらかい布の感触がした。

 心地よい香りがした。

 目映い光が、まぶたを一気に持ち上げる。



「目が覚めたかい?」



 顔をずらすと、よく見知った顔が朗らかに笑みをたたえていた。



「……タダ先生?」


「まだ起きたら駄目だよ。お願いだから無茶だけはしないでくれ」



 額に触れたのは濡れたタオル。

 それを載せられるときに一緒に頭を撫でられた。

 その仕草が久しぶりで、やけに気持ちよくて、ホッとする。



「……1人? まだ無償治療やってんの、タダ先生」


「今日は看護師さんがお休みなだけだよ。あいにくだけど、うちは結構儲かってるよ。毎日帰宅したら豪華なディナーさ」


「うん……金色に輝く卵かけご飯ね」



 先生はさらに笑みを深めた。

 俺が子供の頃から尊敬している八神真之(やがみ ただゆき)は、こういう人だ。