《……それは大変だったな。そうか、郁人はお前にちゃんと話したんだな。だったら、もう言ってもいいな》
ひとつ間を置いて、お父さんは口を開く。
《郁人が家出したのは、彩子さんとケンカしたからってのは聞いたな?》
「うん。郁人くん、すごく後悔してた……」
《本当に悲しいことをしたな。……あのなセラ、郁人が家を出て行く日、彩子さんはある男に、会いたいと手紙を書いたらしい》
「それって……」
《わかるか? 郁人たちの父親だよ。その手紙を郁人が偶然見つけてしまったんだ。
『あんなろくでなしに会って何になる』――そう言った郁人に、彩子さんが珍しく激怒したらしい。それがアイツの家出の原因だ》