振り返るより先に伸びてきた手が、私の腕から郁人くんをさらう。


 そろそろ目も慣れてきたのか、そこには30代後半くらいの男性がいて、素早い動作で郁人くんの症状を確認しているというのがわかった。



「ひどい熱です。このままではさらに悪化するおそれがあります」


「あの……あなたは」


「申し遅れました。医師をやっている八神といいます。私の医院がすぐ近くにあります。彼を運びましょう」


「僕が背負います」



 帰宅途中だったのだろう。

 八神さんは一度荷物をおろして郁人くんを背負おうとした手を止め、若葉くんの言葉に力強く頷いた。



「お願いします」



 ――突然の出会いは、私たちにとって大きな幸運をもたらすことになる。