「桐谷、……桐谷蓮はまたさぼり?」


ぽっかり空いたその席をひと目見て、教壇上の先生は呟く。

ため息を吐きながら言われると、桐谷のさぼりを見逃している自分がどうも後ろめたくなって、そっと視線を窓の外に向けた。



青い空。

今日はよく晴れていて、ひなたぼっこには最適。

きっと桐谷は、一日中屋上にいるつもりだろう。


今は、何をしているんだろう。

寝ているんだろうか。

鳥に餌でも与えているんだろうか。

18禁のゲームでもしているんだろうか。

いや、それをするくらいなら、予想を大きく外して綺麗な女の子とホテルかも。



「……はい、じゃあここの訳を、松村さん」


くだらない想像をしていると、不意に呼ばれた名前。

我に返り、さっと黒板に視線を移す。


書かれていた英文を和訳すると、先生は


「さすがね、とてもいい訳です」


満足げに微笑んでそう言うのだった。




“優等生な学級委員さん”は、今日もその枠に縛り付けられ。

“寂しがりのさぼりくん”は、今日もその枠で自由に渡り歩く。



そんな自由な彼を、誰もが羨ましがり、誰もが軽蔑し、誰もが噂し。


そして彼に、誰もが惹かれていくんだ。




英語を耳で聞きながら、物理のノートを必死に写した。


その間、桐谷の横顔が頭から離れることはなかった。