「けど、桐谷っていつも何処にいるんだろな」


俺、いまだに見つけたことねーよ、と続けた堤くんに、曖昧に相槌を打つ。

一緒にさぼっているなんて、口が裂けても言えない。


「何処にもいないと思ったら、平然と席に着いてたりするし」


じっとどこか一点を見つめた堤くんの視線をたどる。


廊下側、一番前の席。

桐谷の、席。




「気まぐれだね」


思わず口から零れた言葉。

少し他人行儀に聞こえてしまっただろうかと思ったけれど、さして気にしてなさそうに堤くんは頷いた。


「例えるなら、猫かな」

「ふふ、うん。……猫、か」


桐谷にぴったりの比喩。

掴めそうで掴めない桐谷の横顔に想いを巡らせば、それを裂くようにチャイムが鳴った。


眩しすぎる笑顔をひとつ落として前に向き直り、再び眼鏡をかける堤くん。

その様子を後ろから眺めたあと、わたしはストライプ柄のシャーペンをカチカチ鳴らす。



窓際、一番後ろの席。

わたしの、席。



桐谷の席とは、ちょうど対角のところにある。