「またね」



閉じた扉の向こうにばれないよう、赤のリボンあたりに手を当て、深呼吸。

授業が終わった生徒たちの話し声は、まだ遠い。


タチの悪い男だと思う。

毒牙にやられたと思う。


また来てもいいんだって、期待するじゃない。

そんなの、無駄なだけなのに。


それでも、わたしは。


彼の妖艶な桜色の唇から紡がれる言葉のすべてが嬉しくて。

シルキーアッシュの髪から覗く瞳に映りたくて。

ルビーのようなピアスが輝く耳を見つめていたくて。

グリーンのカーディガン越しにでも触れてみたくて。

シルバーリングを中指にはめた右手に二つ結びを乱されたくて。


その他大勢でいいから、彼の世界にいたくて。


叶わないと知りながら、結局またここに来てしまうのだろう。