「ケガはないか?」



 問いかけられて我に返る。


 男の顔は帽子の影に隠れてよく見えない。

 ただそいつがすらりとした長身であること。

 どこに向かうつもりなのかめかしこんでいること。

 しかもそれが嫌味に思えないくらい似合っているということが、わずかな街灯でも知ることができた。


 悪い人間ではないように思う。

 が、素直に差し出された手を取ろうとも思わない。



「……結構です。助けてもらわなくても平気でしたし」


「おせっかいだったか? そりゃあすまんな。これがオレの性分でね」



 生意気なことを言った。

 それなのに、彼は笑うだけ。


 堅く閉ざしていたものが揺れ動いて、つい視線を向けてしまった。