詩音と葵が帰ると、叶亜が「行きますか」と廊下を車イスで進み始めた。
「……なあ、彼女に言わなくていいのか?被害者が最後に思っていたこと。……感じたんだろ?」
叶亜は負の感情を感じとれる。
死者は成仏をしてしまうので、その感情を感じれるのはわずかな間だけだ。
「言わない方がいいと思ったんです。あいつのためにも、死んだ彼女のためにも。彼女の抱いていた感情は、あまりにも悲しすぎる。悲しい感情を共有するのは、僕だけで十分だ」
長い睫毛の目を伏せる叶亜。
今までこいつがこんなにも悲しそうな顔をしたことがあっただろうか。
阿部の脳内に、昔の光景が甦った。
『……は、死んだんだ。お前らのせいで!!』
燃え盛る炎の中で、足を引きずりながら叫んでいる少年。
「……阿部さん。それより、分かってますよね?」
叶亜の言葉で現実に引き戻される。