風はすっかり秋になって、グランドの熱を少しずつ奪っていく。

 テスト期間の真ん中である水曜の午後は、ほとんどの生徒が帰ったあとで、俺はグランドで一人、壊れそうになりつつある理想について考えていた。

 そして、ふと何かの気配を感じて足を止めた。

 見れば、結衣と一緒にいたあの少年が、校庭の隅、バスケットゴールの下でしゃがみこんでいた。

 その表情からは純粋さが消え、うつろな瞳は転がったバスケットボールさえも見ていないようだった。

 祖父の部屋で圧倒的な存在感をもった男が幻のように消えたあの日。

 学校から帰ってきた結衣の様子がいつもと違うことに気づいた俺は、翌日、片づけを休んでいたことをクラスメートになじられながらも、結衣に何があったのか辛抱強く聞いて回った。

 するとかなりの人数が、あの少年と結衣が激しく言い争いをしている場面を目撃していたことを知った。