体育祭の片付けの月曜日。

 俺は学校を休んで、適当に時間を過ごした後、祖父の部屋に向かった。

 案の定、昨日の和服の男がまた来ていた。

 祖父の部屋の枕元で、どこからか持ち出したらしき写真を広げている。

「おっ、翔太君。今日は学校は休みかな?」

 祖父は眠っているようだ。

 俺は声を落として男に話しかける。

「なにやってるんですか」

「懐かしい写真を見せてもらっていたんだ。君も見るかい?」

 男が箱の中から取り出したアルバムを手に、俺のほうへやってきた。

 開かれたページには、ついこの間、恵と行ってきたばかりの『トロピカルドーム』の写真が数枚収められていた。

 日付は六年前。

 最後の家族旅行の写真だった。

 鬱蒼と覆いかぶさるような熱帯植物の中で、理想的な表情で笑おうとする俺と、慎ましく微笑む結衣が写っている。

 あの頃は、結衣の笑顔を大人びた表情だと思っていたが、改めてみてみると、ひたすら何かに耐えているような顔に見えてくる。

 その証拠に、写真の中の結衣は旅行に来てまでも、その懐に大好きな『ネバーランドの少年』の絵本を抱えていた。

「この熱帯植物園は、特別でね。とても住み心地がいいんだよ。人にも植物にも、住みやすい環境ってあるだろ?どんなにバランスのとれた優れた生命でも、環境に合わなければ、たちまち枯れ果てる。この人は、よく世話をしてくれたよ。」

 男は祖父を顧みた。

「翔太君もこの人のように、生命のバランスをとるのが得意みたいだね」

「違う、俺はそんなんじゃない。そうならざるを得なかっただけだ!」

 ふいに暴れるような動きをした俺にぶつかり、男がよろめいた。