体育祭当日。

 朝から晴天に恵まれて、抜けるような青空の下で、予定されていたすべての競技が終わった。

 閉会式が校長の言葉で締めくくられると、ぞろぞろと体操着の生徒が校舎に向かって移動し始めた。

「狩野先輩、少しだけ話、聞いてもらえませんか?」

 突然呼び止められ振り返ると、下から潤んだ瞳が俺を見上げていた。

 数週間前に、たまたま踊りのペアになり今日まで練習してきた後輩だった。

 俺は急に、激しい嫌悪感を覚えた。

 返事も適当に、その場から逃げるように立ち去ろうとした俺の背中に、涙を含んだ声が追いすがる。

 俺は「ごめん」と謝って振り切るように走り出す。

 まだまだ焼けるような夕日が校庭を赤く染める中、校舎に帰っていく恵の背中を俺は遠めに見つけた。

「―――め、ぐみ」

 走りこんできた俺の様子を見て、恵を取り巻いていたクラスメートが驚いた顔をして見つめてきた。

 恵はいつものように明るい声で場を繕うと、クラスメートはすぐに気を利かせ、校舎に入っていき、ほどなく二人っきりになれた。

 校舎の中から冷やかすような視線を浴びながらも、俺は恵の首に手を回して抱きしめた。

「翔太、どうしたの」

「俺、本当にかっこよくなんて、ないんだ」

「あ」

 恵が突然、驚きの声を上げた。

 俺が体を離すと、きまずい顔で屋上を見上げていた。

 俺が振り返り校舎の上に視線を投げると、二人の人影が見えた。

 結衣だった。

 結衣が屋上で、俺と同じ制服の男と話していた。

 さっき校庭で見た女とまったく同じ瞳をした妹を見ながら、俺は体が冷たくなるのを感じていた。