トロピカルドーム内。

 予告どおりに、大量の雨粒が「雨宿り木」の外で降り注いでいる。

「雨宿り木」は古い巨木をくり抜いて作られていた。

 見た目は、あたかも自然に朽ちてできた木の穴という様相をしている。

 人一人がやっと通れる隙間から入って、スコールで濡れた恵と身体を寄せ合う。

 わずかな隙間から熱帯雨林の外を覗けば、白い霧まで発生していた。

 どこかのスピーカーから雷鳴がとどろき始めた。

 空が破れたような恐ろしい音と共に、紫色の稲光がトロピカルドームを白く浮き上がらせた。

 生き物の声はまったくしない。

『太古の昔から変わらない姿で、いまも生き続けている植物って知ってる?』

 ふいに、幼い結衣の声が脳裏をよぎった。

 鬱蒼とした熱帯雨林の木の中でたった二人。

 こうして息をひそめて、「雨宿り木」の外を眺めていると、メキメキと木の皮が伸び縮みする音ともに現れる大木のような巨人の太い足が、いまにも見えそうだった。

 理想というものを人は勘違いしているのではないだろうか。

 少なくとも、結衣が言っていた究極の生命体のほうが、俺には理想的に感じられた。