俺と同じように濡れそぼった熱帯雨林が目の前に現れた。

 薄暗い、誰もいないドームの中で、俺は立ち尽くす。

 俺の中で何かが崩壊してしまった。

 もう二度と理想的な自分を演じる気にはなれないだろう。

 髪から滴り落ちる雨水が、ポタポタと地面に落ちる。

 俺は破裂しそうな心臓を抱えながら、熱帯雨林の古木でできた「雨宿り木」に向かう。

 たかが十八年しか生きていない俺なんて、一瞬でつぶされてしまいそうなほどの圧倒的な生命力が、八方を囲う濡れた熱帯植物から放たれていた。

「雨宿り木」の中に入って、俺は一人うずくまった。

 少年を殴った手に、いまになって鈍痛が襲う。

 先ほどから警報のように頭の中をサイレンが鳴り続けている。

 次の瞬間、はっとして俺は顔を上げた。

 サイレンにまじって、なにかとてつもなく大きな生き物の声を聞いた気がした。

 俺はひざを抱えた姿勢のまま、静かに目を閉じる。

 鬱蒼とした熱帯雨林の中。

 巨大な地響きを上げながら、悠然と歩く巨人となった自分の姿をいつまでも想像していた。