それからまたしばらくして、俺が家族のゴミ箱に古くなった『ネバーランドの少年』が捨てられているのに気づいた翌日。結衣は何事もなかったかのように高校に登校し始めた。

 風が勢いよく吹き、灰色の雲をここへ引っ張ってきている。

 教室の前の廊下の窓から、俺は、いまにも雨が降り出しそうな空を見上げていた。

 するとさっきまで喧騒にまみれていた廊下の空気が、一瞬で変わったのに気づいた。

 俺は、みんなの視線の先を見据えた。

 廊下の先に、結衣を泣かせた少年が立っていた。

 ゆっくり廊下を歩いてくるが、その動作はどこか虚ろで、目的などないように見えた。

 少年は俺とすれ違う。

 俺は少年の何もうつしていない灰色の瞳を見た瞬間、恐怖と湧き上がる怒りで目の前が一瞬にして真っ赤になり、気がつくと、力任せに少年を殴り倒していた。

 騒ぎを聞きつけた恵が、顔を真っ青にしながら俺を後ろから押さえにかかった。

「っ!」

 突然肩に痛みが走った。

 あの日、幻の男にギリギリとつかまれた左の肩に、恵が必死にすがり付いていた。

「やめて!」

 悲痛な叫び声が、耳をつんざいた。

 俺は恵を振り払い、廊下の向こうからやってくる先生たちに、背を向け走り出した。