きょろきょろと警戒して周りを見渡していたマシューが後ろに倒れた。

頬に血が滲んでいる。

黒縁眼鏡が半分破壊されていた。


「マシューッ!!きゃっ!!」

「小賢しいんだよ、死ね。」


マシューに駆け寄った瞬間、髪の毛を掴まれあちこちに振り回される。

ぶちぶち…と髪の毛の切れる不快な音が聞こえた。

マシューが女を蹴ろうとしたが、それも虚空に舞った。

あまりの衝撃と痛みに涙が零れる。

自制しようとすればするほど涙が止まらない。

マシューは勇ましく立ち上がり、私の頭を自分の胸に寄せる。


「ふざけやがって、あの女…」


マシューは完全にキレている。

声がいつもと違う。

怖い。

その内、この恐怖はマシューじゃなくてあの女からだと気づいた。

だって…

あんな獣みたいな人初めて見たから。


「フウトッ!!」


不意に私は叫んだ。

次にやられるのはフウトだ。

そう確信したから。


でも、声は少し遅かった。

女は既にフウトに暴力を振るっていた。

女はフウトの細い体に馬乗りになり、殴り続ける。

ゴスッ、ゴスッ…と音がする。

セシルが突進するも女は素早く身を翻して、空気へと消えた。


「これじゃ埒が明かない…!!」


鋭い銃声のような音と共にまばゆい光が現れた。

神様が降臨したんじゃないかというくらい、眩しい。

私の目の前に私達とは違う影が現れる。


「光があれば、影が出る。

アホは健在だな。」


フウトが血だらけの口元を拭って笑った。