「ニャー」

なんて返事はしてくれず、黒猫は六の肩の上で一つあくびをすると、器用にその場で丸まってしまった。


しかし猫にホームズ、おまけに助手なんてまるで―――


「ホントはワトスンってつけたかったんだがな。助手ってことで。ただ、気に入らなかったらしい」


ああ、なんだ偶然か。


狙ってつけたのかと思った。


「ちなみに赤川次郎はちょびっとしか読んだことがない」



狙ってつけてんじゃん……。


「でも、《Smile!探偵事務所》なんて書いてあるからどんなニコニコ顔の人がやってるのかと思ったら、ものすごく期待をハズレにさせられたんですが」


「あー……この仏頂面は生まれつきだ」


いや、聞いてねーし。


「で、あんたは?」


「あ、はい。飛騨璃 美姫といいます。六さん」


「……俺、キッドって呼んでって言ったよな?」


「嫌だよ恥ずかしい」


とは流石に言わず、ただ「六さんの方が呼びやすいんで」とだけ言ってみた。


「……まぁいいや」


口癖なんだろうか?


「ただ《さん》付けはやめてくれ、気持ち悪い。六でいいから、六で」


一体この人は何歳なんだろうかと、ふと思った。

(実際そんなに放れているような気がしないけど?)


「じゃあ、六。探してもらいたいものが―――」

「あんたも猫、好きなんだね」

「え……ひゃわわっ!?」


唖然とした。


突然六が私の両手を握ってきたから。


「ちょ……」

「しっ!」


無言で目を閉じた六の迫力に流され、私は何も言えずにただ両手を握られていた。


(何を……しているの?)


手を離した六は、嬉しそうな顔でこう言い放った。


「その依頼、請けようか」


……はぁ!?