「私の……記憶?」


確かに暫く前の事なんて覚えてないけど、私は元々記憶力なんて良くなかった。


突然『あんた記憶ないだろ?』なんて言われたって、わからないっつーの!


ちょっと睨んでやった。


「あんたの記憶喪失は―――」


無視された。


六は私に構わず続ける。


「人為的なもんだ。事故や病気なんかじゃない。……どこまで思い出せる?」


「どこまでって言われても……」


《名前》
飛騨璃 美姫

《年》
17

《好きなこと》
読書


と、思い出せる事をポンポンと言ってみる。


特に違和感は無いけど?


「ならさ、住所は?」


「××市中央区×××2ー7ー16ー1ですが?」


「ちなみにその家の屋根の色は?」


六は尚もしつこく聞いてくる。


「青い屋根の二階建てです!いい加減にふざけるのは止めて!」


デスクの上で足を組んだ六は、傾いてきた赤い夕陽を背に、私を見下ろしている。


「私は記憶喪失なんかじゃない!そうよ、ここに来てからろくなことが起きてないわ!」


なぜか無性に怒りたくなってきた。


たまを抱き上げてくるりと背を向ける。


「たまだって自分から私に帰ってきたんだし、あなたみたいな自分勝手な人にはもううんざり!私帰ります」


それまで顔色一つ変えずに聞いていた六が、階段に向かう私の背中に話しかけてきた。


「帰るって、どこに?」


この人はまだ私をおちょくるの!?


私は怯まず、振り返らず、足を止めず、ひたすら階段を睨みながら答えた。


「家です!青い―――」

「屋根の家が他人の家でもか?」


さすがに振り向いた。


六は既にデスクから降り、ホームズを抱きかかえてこちらにゆっくり歩み寄ってくる。


「残念だが、あんたの帰れる家(マイホーム)は無いんだ」