彼と出会ったころの私は15歳。


まだまだ『恋』なんて知らなくて、たくさんの小説やドラマを見ながら『恋はきっと楽しいものなんだ!』と思い込んでいた。


そうして別れた、20歳の冬。


『恋』を経験した私は大人になっていて、単純に『恋』を楽しむ、という事ができなくなっていた。


でも、それでも。


きっと、恋をしたことは私にとって無駄な事では無かったと思うから。



「今日は、月が綺麗だなぁ」



私はすぐ横の窓から見える満月を見ながら目を細め、缶の中のチューハイをまた一口飲み込んだ。



――きっと私は、彼の事が本当に好き『だった』と思う。


少なくとも、彼のひとつひとつの言動に一喜一憂するくらいには。


でももう、私は前に進みたいから。


いつまでも、他人になった貴方のことを考えて立ち止っているわけにはいかないから。


だから。



「ありがとう。そして、さようなら」



私は窓の外の月を見ながら、小さくそっと微笑んだのだった。