一つは、毎日一度は聞くクラスメイトの倉井 斗真の声。



そして、もう一つは――。



(河下の声?なに?ケンカしてんの?)



美味しそうなアスパラベーコンを口に運ぶのをやめると、耳を澄ます。



とうに二人の言い合う声は聞こえなくなっていて、中庭には元の静寂が戻った。



(…空耳?いや、他の奴らかも…)



声の正体が気になったが、亮人はそれ以上 推測することを放棄して、また昼食に取り掛かった。



あれは河下じゃない、と自分に言い聞かせてブロッコリーを口内で味わう。



苦いような、甘いような味が口の中にじんわりと広がった。



ブロッコリーを飲み込むと、亮人は小さなスペースに詰められた焼きそばに箸を伸ばす。



その時だった。



「…まつし…ま?」



唐突に後ろから声がして、亮人は反射的に箸を止め、振り向いた。



そこに立っていたのは、亮人の恋する少女、少し目を赤くした小百合だった。



一瞬、状況をうまく消化できず、亮人は目を見張って小百合を見つめる。



小百合はうつむくと、亮人の座るベンチに歩み寄り、彼の隣に腰を下ろした。